2009年5月31日日曜日

12-1:大地に還る家/匠の技は「暖房」に対処する術を知らない



匠の技は「暖房」に対処する術を知らない

 政府自民党による「200年住宅ビジョン」が動き出している。イギリスは約77年、アメリカが約55年、そして日本が約30年と、各国の住宅の寿命をこのように比較して日本の住宅がいかに短命であるかと語られて来て久しいが、確かにアメリカでは住宅資産が30%を越えているのに対して、日本の国富は約半分を土地が占めており、住宅資産割合は僅かに9.4%に過ぎない。イタリアの市中に暮らしていた時にも感じていたことだが、確かに500年以上も前に建てられた建物がその長い歴史を刻みながら今もその堂々たる風情を保っているのに対し、今の日本の街はどこも個性がなく薄っぺらで、家々はとても価値がある様には見えない安普請である。そんな日本もやっとスクラップ&ビルドの消費住宅から資産としての住宅へ、ストック社会へと踏み出すことになるのだろうか。

 しかし、200年住宅と言っても、200年保つ家を造るということではないらしい。20年×10回ということで、20年毎にメンテナンス、リフォームをすることで200年保たそうということらしいが、「200年」というのも何か根拠があって数字ではなく、国では以前にも長寿命住宅を推進しようと「センチュリーハウジング」というのをやったことがあるので、それでは今度は「100年」の次だから「200年」と言っているに過ぎない様である。

 しかし、日本には築後200年を経過した木造建築で、メンテナンスが全く行なわれずに今も何の支障もなく使われている建物が300棟以上あるということは先に述べた通りである。基本的に構造材として用いられている木が腐らない状況で維持されてさえいれば、木造建築は何百年でも持ち堪えることができるのである。それが現在の木造住宅においてできないのは、勿論、様々な要因があるが、気密化の促進によって湿気の逃げ道がなくなったこと、外気と室内の温度差による結露の発生といったことが主因と言えるだろう。

 即ち、千年単位の長い歴史を通して発達し、綿々と受け継がれて来た日本の木造技術とは、内外の温度差のない環境での家づくりであり、伝統的な匠の技は「暖房」という要請に対処する術を知らなかったのである。「暖房」するためにはこれまで培って来た木造の技術、即ち「湿気を溜めないための技術」をことごとく否定し、室内を外気と遮断しなければならない。そうすると忽ち「結露」の問題が発生してくる。結露が発生すると木は容赦なく腐ってしまう。「暖房」という要請は、これまでの日本の家づくりが全否定されるに等しかった。

 木造住宅の気密化が結露問題を顕在化させ、カビ・ダニの発生によるシックハウスを引き起こしてしまうのは当然の結果であり、その対処法に対する試行錯誤が始まってまだ半世紀も経っていない中にあって、「やはり伝統的な家づくりに戻ろう」という反動も当然の様に起こってくるが、「暖房」せずに昔の様に囲炉裏や火鉢で「暖を取る」、即ち「採暖」だけで冬の寒さを凌ぐ覚悟がある人なら、それで何も問題はない。しかし、声高にそう吹聴する人達に限って、しっかり空調の効いた部屋の中でそんな原稿を書いているものである。

 木造住宅における「暖房」という要請に応えるためには、科学の力を借りて「結露」という問題に対処する匠の技を再構築してゆく必要があるのである。

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