2009年5月13日水曜日

9-4.木造レンガ積みの家/二世帯住宅の思惑


二世帯住宅の思惑

 Yさんと釘のメーカーに行ったり、レンガのメーカーに行ったりと、流石に僕自身も普段、木造住宅の設計の中では経験する事のなかった時間を持ちながらも、プラン作りは着々と進めていた。前述したように、この家の施主は二人いるのである。Yさん本人とYさんの息子家族である。Yさんが一階に住んで息子家族が二階に住むという基本構成だが、完全分離型の二世帯住宅とするにはこの敷地条件で可能な床面積が足りない。玄関と化粧室、浴室は一階で共有とすることで、随分スペースに余裕ができる。

 最近は若い世代の夫婦にとって、土地+建物でローンを組むには負担が大きすぎるので、親の土地をあてにして二世帯住宅を建てるケースが多いが、完全分離型にすると住宅にとって最も負担の大きい設備機器が二重に必要となる事、絶対面積に余裕がないため夫々の部屋にゆとりがなく、見かけは大きな家でありながら、実は小さな部屋で生活しなければならないということになってしまう。

 二世帯住宅を考える時に、子供世帯にとってまず問題なのが、夫の親、妻の親のどちらと一緒に住むか、という選択だが、少し時代を遡れば、長男の嫁は夫の家に嫁ぐのだから、その親の面倒を見るのが当然だという社会通念があったが、今では、妻は一般的に自分の親と住む方が気が楽で、夫にしても妻が気を使いながら暮らすのを見ているのは忍びない、ということで、妻の親と暮らす方がいい、という意見が多い。

 しかし、実際には、その選択はお互いの両親の現状から判断されることになる。一方の親の健康状態がおもわしくなく、老々看護をしている状況であれば、子世帯としてはそちらを優先せざるを得ないだろうし、一方の親がすでに片親で、病気で不自由な生活を送っている様であれば、勿論、そちらを優先させなければならない。どちらの親と暮らすか、というのはそうした現状判断からなされることになるが、どんなスタイルの二世帯住宅にするか、というのは、ここで結構夫々の相性が問題になってくる。

 子世帯の奥さんが夫の親と二世帯住宅を造るのはいいが、完全分離型でなければイヤだということになれば、割高で窮屈な住まいを許容しなくてはならない。しかし、折角一緒に住むなら「大家族」でワイワイ楽しくやろう、ということになれば、家のプランは随分違ったものになる。

 以前やった例では、正に「大家族」をテーマに、親夫婦、子世帯夫婦の部屋とその子供達の個室はあるが、あとは総て共用とした家がある。キッチンにはおばあちゃんと若奥さんが立ち、ダイニングには家族全員分の席があり、広いリビングがある。若奥さんは専業主婦であったが、若夫婦で何処かへ出かけたい時には、老夫婦が子供達の面倒を見てくれるし、おじいちゃんが病院に行く時には、若奥さんが車で送り迎えをする。「昔は年金なんかなくたって何も困る様なことはなかった」と、聞いた事があるが、昔の日本の家というのは確かに3世代同居というのが当たり前だったのである。

 家父長制と呼ばれ、囲炉裏を囲んで食事を取る時にもヨコザ(主人または長男の場所)、キャクザ(客の場所)、カカザ(主婦の場所)、キジリ(次男以下の場所)というように、きちんとその席が決まっていたというまだ封建的なしきたりが残っていた時代とは違うが、核家族化が進み、「家族の絆」とか「家族の団らん」という言葉が聞かれなくなってきた現在、家族というものに対する危機意識が反動となって多少封建的な求心力を求めて「大家族」という形が二世帯住宅という場を借りて再び顕在化してくるのかも知れない。

 しかし、Y邸に関して言えばそれは明らかに深読みのし過ぎである。Yさんは自分の寝室に孫を泊めてあげる為のベッドをどう置こうか悩んでいるくらいだから、息子家族とは当然上手くやってゆけるものと、そんな心配はしておらず、ただこのレンガの家を形あるものとして孫に残してやりたいという想いの方が遥かに強い様だった。

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