2009年5月27日水曜日

11-3:長寿命住宅への課題/国産材をフル活用する


国産材をフル活用する

 日本の森林のうち約60%が天然林、そして、残りの40%が人工林である。植林は江戸時代当たりから盛んに行われていたが、それが第二次世界大戦の混乱の中で一時期荒廃することになる。しかし、戦後50年代後半頃までには伐採跡地への植林が一段落し、60年前後に生じた炭や薪の需要の拡大に伴って70年代に入る頃まで民有林において毎年30万ヘクタールの規模で造林が拡大して行った。

 燃料としての需要に対しては若木や間引き伐採される、いわゆる間伐材で用は足りたが、高度経済成長期に入ると、それは石炭、石油にその座を奪われ、木材はパルプや住宅用材としての需要が急激に高まってゆくことになる。そこで、国の造林政策が後押しする中、雑木林の山を持っていた農家がよりお金になるスギやヒノキを植えるようになり、全国に膨大な杉林ができた。

 人工林はそもそも人間の経済的価値に基づいて、それこそ人工的に作られた植生なので、苗木を植えたら後は放っておいても勝手に自然の中で大きくなる、というものではない。造林、保育、間伐、伐採という手間のかかる一連の作業が適時適切に行われなければならない。

 しかし、この時点では国内には利用可能なまでに成長した人工林がまだ少なかったため、この時期を通じて丸太輸入の自由化が段階的に実施されることになる。
 すると、日本の林業は高度経済成長に伴う労務費等の経営コストの上昇、労働力の都市部への流失、高齢化の進行、山里における過疎化が進み、間伐などの手入れが行われず、放置されていった人工林はどんどん荒れ果ててゆくことになった。

 国際市場経済の波に飲まれた日本の木材は現在、昭和58年のピーク時と比べると、1/7〜1/8の値段になっているというのだから、如何に林業がひとつの生業として成り立たなくなっていることが分かるだろう。そしてそんな日本の人工林の約三割がすでに危機的な状況にあるという。

 一本の苗木が住宅の構造材として使える大きさになるまで60〜70年かかる。そして戦後60年、人工林は荒廃し続ける中にあって、すでに主伐の対象となる樹齢に達している木が多く残されているのである。
 林業に携わる人達の多くが低賃金、出来高払いというような労働を強いられている現場の雇用構造から抜本的な改革が必要となるが、合理化によるコスト削減に勤めながら、今まさに日本の林業の再構築を図り、国内の森林資源の活用を真剣に考える時が来ていると言えるだろう。その為には、まず国が率先して日本の森を守る施策を講じなければならないことは明らかである。

 さて、「大地に還る家」の方針として「できるだけ石油化学建材を使わない家づくりをしよう」と言っているので、この「できるだけ」という言い方は、逆に言えば、自然素材だけでは今は家が建てられないということなのか、という質問を受けた事がある。確かに、今すぐ石油化学建材を完全に排除することは難しいだろう。しかし、この「できるだけ」という言葉には実はまた別の意味が込められている。

 まず、僕らは輸入材の使用を減らし、国産材、それも地元の木で家を建てようと考えている。日本には筑後200年維持されている木造建築がおよそ一万棟あるが、このうち修復工事などなど何も行なっていないにも関わらず、その性能を維持しているのが300棟以上あるという。それらの木造建物に共通しているのが、地元の木を使用している、ということであり、木はそれが育った環境の中で使われる事の合理性を実証してくれている。そして、勿論、地元の木を使うことは物流のコストを抑え、荒廃し続ける日本の森林を復活させようという意図があってのことだが、実は、1本の柱を作るのに、枝打ち間伐にはじまり製材に至る工程の中で約その4本分の端材が利用されずにただ捨てられている、という現実に目を向ける必要があると考えるからである。僕らはこれをいかに有効に利用するか、ということにも同時に対処しなければ、本当の意味で健全な森林を取り戻す事はできない。そのためには無垢の木だけに固執せずに、国産材による集成材、合板・ボード類の積極的な利用を考える必要があるのである。

 集成材や合板類は石油化学から生まれた接着剤を使って作られているから、本来ならその使用を避けたい材料であると言える。これが輸入材によって作られているものなら、やはりその使用は避けたいと思う。
 石油化学工業の発展により石油の消費量が急激に伸び、それが現在、地球温暖化問題の大きな要因のひとつと考えられているが、元々、原油の中には燃料として利用できない様々な余分な成分が含まれており、石油精製の過程でそれが取り除かれるが、昔はこれをただ焼却処分していた。だから昔の精油工場ではモクモクと黒い煙が上がっていた。


 しかし、石油化学はこうした成分をとことん利用するまでに発展して来たので、今では製油所の煙突からは殆ど水蒸気しか出ていない。我々が石油を燃料として使っている限り、こうした副産物も有効に利用しなければならないのである。
 今は集成材や合板類に使われる接着剤の殆どは我々の健康に配慮したものになって来ている。自然を守るために必要となる石油化学建材があるなら、我々はそれを積極的に使用したいと考えている。それが「できるだけ」という意味である。

 大手ハウスメーカーの中には、すでにこうした環境への取り組みの一貫として、これまでのホワイトウッドなど外材による集成材から国産材の集成材への転換を始めているところも出てきている。
 エコを考えて「マイ箸」を持ち歩いている人がいるが、それよりも「国産の割り箸」を積極的に使おう、という活動の方がより有意義なことだと言えるのではないだろうか。

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