2009年5月22日金曜日

10-6.「高気密・高断熱」後/「透湿する壁」をつくる



「透湿する壁」をつくる

 では、断熱はどうするのか、断熱はしないのか、はたまた、防湿気密シートを張った充填断熱に戻るのか、ということになるのだが、答えはそのいずれでもない。その答えは、防湿気密シートを張らない充填断熱である。

 「高気密」の意味については先にも語っているが、これは、「高気密・高断熱」後の断熱法について語る時に非常に重要なことなので、今一度確認しておきたいと思う。
 「高気密」には次の意味がある。それは、湿気(水蒸気)を通さないための「防湿」と、漏気を防ぎ計画換気を可能にする為の「気密」である、ということ。これは今まで常に「高気密」という言葉でひとつにまとて考えられていたことである。

 しかし、僕はそれを分けて考えることにした。防湿気密シートを張らない充填断熱とは、「防湿」を取らないで「気密」だけを取る、ということである。
 防湿を取らなければ内部結露を起こす、というのは、北海道などの寒冷地における重要な教訓だが、首都圏地域は寒冷地から比べると家の内外の温度差はそれほど大きくはなく、内部結露が起きる前に壁の中に侵入した水蒸気が外部に排出されるような外壁構成ができれば、それも可能であろうと考えた訳である。実際に外壁を構成する各々の材料の透湿抵抗(湿気の通し難さを表す数値)を元に結露計算をすると、それが十分可能であることが分かる。

 しかし、この考え方は決して新しいものではなく、高気密高断熱工法が生まれるまでは、「結露を防ぐには室内側の透湿抵抗を大きくし、外壁側を小さくする」というのがセオリーだったのだ。即ち、室内側の面材はできるだけ室内で発生した水蒸気が壁体内に侵入しない様に湿気に対して抵抗力のある素材を使う。そして、もし、壁体内に水蒸気が侵入してしまったら、できるだけ早く湿気が外(外壁通気層内)に抜ける様に、湿気を通し易い素材を用いる、ということである。

 壁体内で結露するか否かは空気線図を元に計算で求める事ができるが、定常解析の上では、比較的簡単に判断できるようになっている。即ち、断熱材の外面を境界として、その外側と内側の透湿抵抗の比が断熱区分された地域毎に決められた比より大きければ安全であると判定できるものとなっている。

 例えば、日本は断熱区分された地域はI〜VIまで6地域あり、首都圏はそのIV地域ということになるが、この地域では外壁を構成する材料の透湿抵抗を足した比が外:内で1:2以上あればいいということになる。

 だから誰でも簡単に内部結露に対する安全性をチェックしながら木造住宅などの設計を行なう事ができるのだが、しかし、この判定法は殆ど知られていない。

 実は、透湿抵抗というのはその時の相対湿度によって変化してしまうもので、特に木質系材料は相対湿度が高いほど透湿抵抗が小さくなる。即ち、湿気を通し易くなってしまうという性質がある。だから、欧米では乾燥状態(材料両面の相対湿度が0%〜50%)の時はドライカップ法で測定し、湿潤状態(材料両面の相対湿度が50%〜100%)の時にはウェットカップ法を用いて、両方の数値を併記し、結露の有無を検討する部
材についてはウェットカップ法の数値を採用している。

それに対し、日本のJISの定める測定法ではカップ内の相対湿度を0%としているので、これはドライカップ法に近い値になる筈だから、計算に使用する数値としてはその正確性に欠けるのではないかという疑問がある。

 いずれにしろ、多くの研究者が様々な実験を重ねながら、未だに推論としての考察が書かれているのを見ると、材料の透湿性というのはそれだけ微妙で厄介なものであり、未だに確立された理論とはなっていないという事なのかも知れない。

 また、一軒の家が内部結露を起こすか否か、という問題は、ケースバイケースで諸条件を設定しなければ実際のところは分からないのだから、非定常解析が可能となる解析ツールの開発もなかなかおいそれとはいかないに違いない。

 しかし、研究者という立場ではなく、実際に木造住宅を設計する現場の設計者としては、いずれにしろ、できるだけ内部結露の心配のない仕様を作り出さなければならない。高気密・高断熱技術というのは、確かにそういう意味では透湿抵抗云々に関わらず、殆ど透湿性のない素材を用いて水蒸気に対するバリアを作ってしまうのだから話しは明快である。北海道であろうと東京であろうと、その土地の気温に見合った性能の断熱材を選びさえすれば、同じ仕様で内部結露の心配のない壁を作る事ができるのだから。

 そういう意味で言えば、僕が高気密・高断熱後の断熱として取り組み始めた事は、決して高気密・高断熱を超えたというものではないのである。事実、次世代省エネ基準以前の「新住宅省エネルギー基準」の結露防止法などで示されていた、どちらかと言えば古典的な理論、方法論なのである。

 しかし、この透湿抵抗理論が教えてくれるのは、北海道では防湿気密シートは外せないが、東京ではそれがなくても内部結露を起こさない壁を作る事ができるということである。「透湿する壁」は正にその土地の気候・風土に合わせて作られるものであるし、それこそ、日本の家づくりの伝統を踏襲する考え方として抵抗なく人々に受け入れられるだろう。

 実は、これはもしかしたら高気密・高断熱など知らない設計者、あるいは施工者が、経験から学んで上手くいっていた断熱法だったかもしれない。しかし、透湿抵抗理論のさわりを学んだだけで経験に理論的な裏付けを持たせる事ができるし、理論を踏まえればより良い工法をもっと合理的に産み出す事もできるのである。だから僕はこの「透湿する壁」を経験ではなく理論から生まれた工法として、勝手に「透湿断熱工法」と呼んでいる。

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