2009年5月23日土曜日

10-7.「高気密・高断熱」後/マテリアル・マイレージ


マテリアル・マイレージ

 実は、首都圏で木造を中心に設計をしている設計事務所を十社ほど集めて研究会を開き、僕が断熱についての講師を受け持った時に、集まったメンバーにそれぞれ自分が普段やっている断熱の仕方について、外壁の断面構成図を描いてもらったことがある。そこで確認したかったのは、高気密・高断熱が分かっているか、ということではなく、内部結露に対して安全な仕様をちゃんと考えて設計しているかどうか、ということだった。しかし、結論としては、殆ど分かっている人はいなかったのである。

 内部結露の心配が少ないと思われる仕様ができていたのは十人中五人いたが、ひとりはアキレスの外張り工法を採用している人で、二人目は防湿層なしでセルロースファイバーによる断熱をしている人、あとの三人は、殆ど断熱も気密も期待できないため、内部結露の心配はないと判断された人である。それ以外の五人に共通していたのは、外壁廻りを構造用合板で固めて、グラスウールなどの充填断熱を行なっていたことである。これできっちり部屋内側に防湿気密シートを張っているなら問題はない。袋詰めになった防湿シートの耳付きのものを使っていればいいのではないか、という意見も出たが、壁の中に筋交いがある場所ではきちんと施工するのは難しいし、コンセント廻りなど防湿層を破る箇所をきちんと気密テープで塞ぐ様な丁寧な仕事をしている現場は東京辺りでは殆どない。室内で発生した水蒸気はそうした僅かな隙間から壁の中に侵入し、透湿抵抗の大きな構造用合板に遮られて逃げ場を失い、そこで結露を起こす事になる。耐震強度を高める事ができる構造用合板は壁内結露に対しては圧倒的に不利な条件を備えてしまう事になるのである。

 そして、高気密・高断熱を快しとしない設計者の多くが、ではどんな断熱をしているのかと言えば、その実体は、殆ど断熱をしていないか、あるいは、構造用合板で壁内結露を引き起こす様な断熱をしているのである。五人の中には羊毛断熱材を使っているので内部結露の心配はないと信じていた人もいたし、無垢のフローリングや珪藻土の塗り壁といった自然素材を売りにしている設計者もいた。

 25年保てばいい、ということなら、壁内結露が起こっても、カビやダニに甘んじながら生活することは可能だろう。今までの家が正にそうだったのだから。しかし、これからの家づくりを考える時、まず必要なのは、今までの日本の住宅の不健康を根本から取り除き、長寿命に耐える家づくりが必要なのである。

 さて、「透湿する壁」をつくる時に壁の中に充填する断熱材は何がいいのか、ということに少し触れてみよう。充填用の断熱材として考えられるのは、主にボード状になっていない繊維系として分類されている断熱材で、従来から使われている無機質系のグラスウール、ロックウール、動物系の羊毛断熱材、そして、木質系のセルロースファイバー、綿状木質繊維、フラックス(亜麻)繊維、ハンフ(大麻)繊維、ココヤシ繊維、その他に、廃ペットボトルの再利用として作られたポリエステル断熱材などがあるが、羊毛断熱材はニュージーランドやオーストラリアから、エコな断熱材として注目されている木質系断熱材のうちセルロースファイバー以外の殆どがドイツなどヨーロッパからの輸入に頼っている。

 しかし、断熱材のような軽くてかさばるものは輸送する上では最も不経済であり、それ故、こうした輸入される断熱材の多くは当然、価格に跳ね返って来ることになるから、なかなか気軽に採用する事ができないというのが現実である。この問題は、また別の視点で見てみる必要がある。

 最近、フード・マイレージという言葉をよく耳にする様になったが、これは食料の輸送距離という意味で、食料の重量×距離(例えば、トン・キロメートル)となり、CO2排出量に換算してpocoという単位で表している。この数値が小さい程、輸送にかかるCO2排出量が小さいということで、要は、地球温暖化防止の上でもできるだけ輸送エネルギーのかからない地元で取れたものを食べよう、ということである。

 建築に用いられる様々な材料もこれと同じで、現状、建築費に占める物流コストの割合は大きく、こうしたコスト削減の意味においても、できるだけ国内で生産されるものを使う様に心掛けなければならない。フード・マイレージにあやかって、これを「マテリアル・マイレージ」として家づくりの材料選択の指標とすべきである。

 さて、早速このマテリアル・マイレージを断熱材選定の基準として当て嵌めてみると、使用できる断熱材は、グラスウール、ロックウール、セルロースファイバー、そして再生ポリエステル断熱材の四つに絞られてしまう。羊毛断熱材は、輸入される断熱材の中では比較的安く、調湿効果のある「自然系」の断熱材としてもてはやされ、そのシェアを延ばしているが、それがもっぱら輸入に頼っているものとして選択基準から外れてしまうのである。

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