2009年5月24日日曜日

10-8.「高気密・高断熱」後/セルロースファイバーの魅力

セルロースファイバーの魅力

 「透湿する壁」を作る時に残った四つの断熱材のうちどれが一番相応しいかと絞る必要はない。繊維系の断熱材はおよそ似通った透湿抵抗値であるため、首都圏地域においてはどれを使っても結露の危険性の少ない外壁を構成する事ができる。

 しかし、その中でもセルロースファイバー(以下CF)には注目しておく必要があるだろう。首都圏の設計事務所を集めた時に、一人だけこのCFによる断熱を行なっていた設計者がいたが、彼は自ら「断熱屋」と称してCF断熱を推進している山本順三氏と長い付き合いのある設計士だった。山本氏は「この本を読んでから建てよう」「無暖房・無冷房の家に住む」などの著作でCFという断熱材を世に知らしめた人だが、自ら「Z工法」というCFによる断熱工法を作って、断熱工事を請け負う会社の社長でもある。断熱の分野では名高い大学の先生方をコケ落とすその口の悪さには賛否両論ありそうだが、CFによる彼の断熱工法は正に僕が考えていた「透湿する壁」そのものであり、透湿抵抗理論からそれが可能であると分かっていても、僕自身なかなか踏み出せないでいた「本当の透湿する壁」を彼は10年も前から実践していたのである。そして、ここで言う「本当の」とは、「通気層のない壁」を意味している。

 外壁通気工法は、石油化学建材として作られる様になったサイデイングなどの外壁材が殆ど湿気を通さないため、湿気の逃げ道として外壁仕上げ材を軸組から浮かせ、その隙間に空気が流れる様にしたものである。そして、僕の「透湿する壁」も基本はこの通気層に湿気を抜くことを前提としていた。しかし、彼はCFと高千穂という会社が製造販売している「スーパーそとん壁」という九州のシラスを原材料とする塗り壁によって、通気層のない外壁、即ち、室内から外壁の表面まで湿気を通してしまう家を造っていたのである。

 これが可能となったのは、まず、他の繊維系断熱材にはないCFの特異な性質にある。CFは元々、新聞古紙から作られる細かな木質繊維で、決して新しい断熱材ではないが、研究者の目にも留まらず、長い間、何故かマイナーな存在に甘んじてきたところがある。しかし、相対湿度が上がると大量の水蒸気を吸収して結露を起こさせ難いという性質があることがいくつかの実証実験で明らかになり、東京などのIV地域で、外壁の透湿抵抗の外内比が通常なら1:2以上必要なところが、CFを使うとそれが1:1でも結露が起こらないことが確かめられている。まだ、科学的に充分解明されている訳ではないが、まず、これが通気層のない壁を可能にする大きな要因となる。

 次に「そとん壁」であるが、通常、木造住宅の外壁を左官仕上げにする場合、モルタル塗りとした上に仕上げ材を塗る、あるいは吹き付けたりするが、スーパーそとん壁は木づり下地の上に透湿防水シートを張って、その上にモルタルを塗らずに直接そとん壁を塗り上げてゆき、そのまま仕上げとなる。このスーパーそとん壁がモルタルよりも遥かに透湿性が高いので、通気層がなくても透湿抵抗の外内比1:1を何とかクリアできてしまうのである。

 通気層のない「本当の透湿する壁」は、このように「CF」と「スーパーそとん壁」という2つの組み合わせによって可能となるものであり、今のところ、これ以外の可能性はまだ見出せていない。

 CFにはこの他に次の様な利点がある。まず、CFは吹き込み工法によって施工されるので、形状が複雑な部位でも隙間なく充填する事ができるということがある。これはグラスウールなどマット状の断熱材には不得手な部分であった。そして、吸音性能に優れる、という特性がある。また、新聞古紙を使って作られるので、一時製造エネルギーが他の断熱材に比べて圧倒的に小さいというのも大きな利点と言えるだろう。

 一般に高気密・高断熱住宅は、冬場に過乾燥になる、さらに、音が反響する、という指摘があるが、CFは保湿性能が高いので冬場の乾燥に効果が見込め、音の反響に対してもそれを緩和してくれることが期待できる訳である。

 勿論、欠点がない訳ではない。吹き込み工法による施工は専門業者によって行なわれるので、施工精度の信頼性は高いが、やはりコスト的にも高く付くということが言えるだろう。
 しかし、いずれにしろ、CFは「透湿する壁」を作る上でも、さらに「大地に還る家」を考える上でも充分魅力的な素材である事には変わりはない。
 

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