2009年5月19日火曜日

10-3.「高気密・高断熱」後/石油化学建材はできるだけ使わない


石油化学建材はできるだけ使わない

 「田園を眺める家」の工事は以前、その力量を見込んだ袖ヶ浦の永野工務店という小さな工務店に託し、見事に完成させてくれたので、その経緯を物語るにはあまり面白みがなく、多くを語る積もりはない。その代わり、この頃考え始めていたことについて、この家の工程を追いながら少しずつ触れていこうと思う。

 実は、この時から僕は「外張り断熱」を止めている。即ち、あの木造レンガ積みの家が僕の造る「外張り断熱」最後の家ということになるだろう。その理由は、使用する発泡プラスチック系の断熱材の価格の高さにいつも苦しめられてきたから、というのも大きな理由のひとつではあるが、勿論、それだけではない。「大地に還る家」の構想はこの頃から始まっており、それは勿論、これからの家づくりはどうあらねばならないか、というテーマに取り組み始めたということだが、それを考えるためには、今までの家づくりの何がいけなかったのか、という問題点をピックアップし、整理することからはじめなければならない。
 そこでまず、取り上げなければならないのが「石油化学建材」である。
 
 日本という高温多湿の環境にあって、木で家を造り続けてきた日本人が、湿気と腐れの関係に敏感であるのは当然で、家を長持ちさせるには湿気を溜めないことが肝要であり、それが日本の木造技術を発展させ支えてきた、という側面がある。

 日本の家はずっと長い間、木・紙・藁・土・漆喰といった自然素材でできていたのである。これらに共通して言える事は、湿度の高い時は吸湿、保湿し、湿度が下がると放湿するという性質を持っているという事である。特に、土蔵など、土で造られた厚い壁は、湿気を制御する上で重要な役割を果たしていた。鎌倉期に登場した「畳」にも、イグサのこうした性質がよく活かされていた。

 しかし、二十世紀後半における石油化学の発展は、あらゆる住宅部品を自然系素材から石油化学建材に変えてしまうことになった。性能にムラがなく、見た目美しい新建材は消費者からも歓迎され、たちまち家は石油化学から産み出された部品でプラモデルのように造られるようになっていった。僕が子供の頃には、新築の家の内装の壁は木目模様のプリント合板だったが、その後、石膏ボードにビニールクロス貼りとなり現在まで続いている。

 柱・梁で囲まれた面を塞ぐ「面材」として利用できる素材は自然界にはなかったから、そうした面を塞ぐには無垢の板を張ってゆくか、竹小舞を編んで土壁にするしかなかったが、化学接着剤で薄い板を張合わせた「合板」が出回る様になると、筋交いの代わりに構造用合板は耐力面材として用いられる様になり、合板は重宝な面材として多用される様になった。外壁材も今では殆ど石油から産み出されたサイディング張りである。
 しかし、石油化学建材は自然の無垢の木と違って共通して湿気を通し難い材料なので、必然的に家の中、そして壁の中の湿気の逃げ道がなくなり、結露の問題を抱えることになった。家の気密化には勿論、アルミサッシの普及も貢献している。

 結露はカビやダニを発生させ、構造体である土台や柱を腐らせ、「木の家」であることを忘れた日本の家はかつてないほどの短命を強いられることになってしまった。

 シックハウス問題は、当初、住宅の気密化が進んでゆく中で室内で発生した水蒸気の逃げ道がなくなり、結露からカビ・ダニの蔓延という状況下で起こった問題だったが、化学物質過敏症は石油化学の発達と共に建材に含まれるVOC(揮発性有機化合物)、特に合板類に使われる接着剤やクロス糊などから発散される化学物質が人の体内に蓄積されることによって発症し、そうした問題が大きく取り上げられる様になってやっとVOCの規制が法制化され、建材におけるVOC対策は一気に進んだが、それと引き換えに住宅における本質的な問題、即ち、「湿気が抜けなくなった家」に対する対策はすっかり忘れられてしまって、相変わらず石油化学建材による家づくりはその衰えを知らない。

 そんな中でも、一般消費者の間には「自然素材」への要求が高まってきていることも事実である。しかし、それは近年の健康志向という流れの中で「自然素材」=「健康」という短絡的なイメージに過ぎず、自然素材を使ったからといって、即、健康な家になる訳ではない。「自然素材」といえば、湿気を通す、呼吸する、といったイメージがあり、それ自体は間違っているとは言わないが、その使い方を間違えれば、ただの結露住宅になってしまうのである。そうした本質的な意味を理解している人は殆どいない。
 まず、「石油化学建材をできるだけ使わないようにしよう」という気持ちを僕が強く持ち始めたのは、「湿気の抜けない家」からの脱却を目指しての事だったのである。

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