2009年5月26日火曜日

11-2:長寿命住宅への課題/スローハウジング


スローハウジング

 「大地に還る家」を考える時、まず必要なことは、これからの日本の家はできるだけ小さな生産エネルギーで造られなければならない、ということである。その為にはまず、石油の呪縛から解き放たれなければならない。できるだけ石油化学製品を使わない建材を吟味して選ばなくてはならない。

 しかし、生産エネルギーの大きな建材は勿論、石油化学から生まれた新建材だけではない。例えば、住宅建材の中にはアルミサッシに代表されるアルミ製品が数多くある。アルミニウムは電気分解によって精錬されるため、「電気の缶詰」と呼ばれるほどその製造過程で多量の電力を必要とする金属であり、さらに製品にする為にもまた多大なエネルギーが投入される。また、石油もそうだが、アルミの原材料であるボーキサイトは日本では全く産出されない鉱物だから、100%海外からの輸入に頼っている。先に「マテリアル・マイレージ」と名付けた通り、こうした輸送にかかるエネルギーもきちんと評価しなくてはならない。

 アルミサッシを、例えば、木製サッシにすれば相当小さなエネルギーで済むことになる。勿論、この木製サッシを海外から輸入するのではやはり多大な輸送エネルギーを消費することになってしまうから、国内で、それもできれば地場で造られるものを採用してゆくようにしなければならない。
 
 こうした考え方は、グローバルスタンダードが叫ばれているこの時代に逆行しているように思われるかも知れない。しかし、現実には世界がグローバル化してゆく一方で、地域のアイデンティティを取り戻そうという動きが益々強まっているのも事実である。

 一時期、「スローライフ」とか「ロハス」といった言葉が流行った。スローライフは、元々、ローマにはじめてマクドナルドが進出して来た時にファーストフードに異を唱えた「スローフード」という言葉に始まる。後にスローフード協会の会長となるカルロ・ペトリーニが友人達と食事をしていた時に生まれた言葉だと言われている。1986年、北イタリアはピエモンテ州のブラという小さな村に発足したスローフード協会は、今では世界38カ国に6万人以上の会員をもつ大組織になっている。

その運動は、
1) 消えてゆく恐れのある伝統的な料理や質の高い食品を守ること、
2) 質の高い素材を提供してくれる小生産者を守ってゆくこと、
3) 子供達を含めた消費者全体に味の教育を進めてゆくこと、
という3つの活動から成っている。

 この「食」についての考え方を少し広い視野でとらえ、人々の生活全般に目を向けようというのが「スローライフ」と言えるだろう。

 「ロハス」は、Lifestyle of Health and Sustainabilityの頭文字LOHASから生まれた言葉である。読んで字のごとく、健康で環境を破壊することなく維持できるライフスタイルのことで、アメリカの社会学者Dr.ポール・レイの研究から生まれた言葉である。

 大量生産・大量消費社会が生んだ様々な環境破壊を反省し、地球環境・人間・社会に優しさを追求しようというライフスタイルで、それはスローライフの概念に近いものがある。そして、いずれもかつての過激な環境保護運動とは違い、地球環境に対して個々の人間が如何に優しく接するか、という概念を共有していると言えるだろう。

 さて、スローフードがスローライフに発展すると、今度は当然、「スローハウジング」などという言葉が生まれて来る。
 スローフードの活動には「地産地消」、即ち、地元で生産したものを地元で消費する、という考え方がある。その土地で取れる食材を使って、その土地の気候風土にあった料理を作る。伝統料理とは正にその土地が生んだものであり、その土地で食されてこそ美味しい料理と言えるのである。

 料理は新鮮な食材が手に入らない地域で発達すると言われる。新鮮な食材が手に入る地域では、多少の塩気を加えるだけで食材そのものの美味しい味を活かせるが、新鮮な食材が手に入らない地域では、その食材を美味しく食べるために手を加えなければならないからである。

 流通や冷凍技術が発達した現在では世界中のどんな新鮮な食材でも手に入れることができるようになり我々はいつでも世界の料理を口にすることができる、ということが当たり前の時代に生きているが、それは、同時にその土地の固有の食文化を喪失させることになった。

 スローフードの地産地消をスローハウジングに置き換えてみるとどうなるだろうか。

その土地で育った木を使って、その土地の気候風土に合った家を造る。そして、伝統的な家造りの知恵と技術を守る

ということだろうか。

 「その土地の気候風土に合った家を造る」というのは、先にお話しした正にパッシブデザインのことであり、世界中の住居がその長い歴史の中で育んで来たものである。そして、「その土地で育った木を使って家を建てる」というのは、日本では昔はごく当たり前に行われていたことだった。しかし、今はどうだろう。日本のあらゆる地域に北米や南洋など外国で採れた木材で家が建てられている。何故なら、国産材よりも外材の方が安いからで、これは自由主義経済の道理である。その結果、日本の林業は急速に衰えてしまった。

 日本の森林率、即ち、国土面積に対する森林面積の割合は67%あり、日本は先進諸国の中では珍しく森林率の高い国なのである。イギリスの森林率は10%しかなく、アメリカで32%、森林のイメージが強いカナダでさえ54%という。
 このように、日本は森林の国でありながら、現在国内の木材はその20%も使われていないのである。歴史の中でずっと木の家を造って来た日本人が、経済原則だけで招いてしまった結果がこれである。

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