2009年5月29日金曜日

11-5:長寿命住宅への課題/コンクリートの寿命


コンクリートの寿命

 「田園を眺める家」の地盤は、田圃を埋め立てて造った造成地で、コンクリート擁壁に囲まれて周囲の田圃より1メートルほど高く盛土されていたので何らかの地盤改良が必要になるだろうと踏んでいたが、調査の結果はベタ基礎とすればそのままで十分問題のない地盤である事が分かった。これで、見えないところに百万円あまりのお金をつぎ込む必要がなくなる。

 地鎮祭を済ませると、すぐに基礎工事に取り掛かることになるが、考えてみれば今は木造とは言っても、基礎だけはコンクリートで造ることになる。木が湿気を帯びて腐ることのない状態を保つ事ができれば、木造という架構は何百年でも保ち応える事ができる。しかし、それを支える基礎のコンクリートというのはいったいどのくらいもつものなのだろう。

 大手ゼネコンが超高耐久性コンクリートの研究に盛んに取り組んでいる、という記事が新聞に載ったのが今からおよそ3年前のことだったと思う。それが今「100年コンクリート」という言葉になって一人歩きしている様だが、耐震偽装事件で大きなダメージを受けたマンションメーカーによる起死回生の宣伝文句になっている様である。

 しかし、コンクリートというものは、砂と砂利とセメントと水を混ぜ合わせると化学反応によりどんな方法でもその殆どがコンクリートとして固まってしまうのであり、紀元前からの長い歴史がある。ローマのパンテオンはローマン・コンクリートと呼ばれる古代コンクリートでできており(鉄筋は入っていない)、すでに2000年もそのまま建ち続けている。

 鉄筋コンクリートは、19世紀にフランス辺りの花屋さんがコンクリートで成形した鉢が壊れ易いので、針金を中に入れて補強した、というのがはじまりとされているが、鉄筋コンクリートはコンクリートと鉄の膨張率がたまたま同じだったという奇跡によって成り立っている。圧縮に強いコンクリートと引張りに強い鉄筋が一緒になって無敵の構造体となった訳だが、しかし、この時、同時に宿命的な寿命が与えられてしまうことになった。

 それは、そもそもアルカリ性であるコンクリートが中性化してゆくことにより鉄筋が錆びてしまう、その錆びの進行速度が鉄筋コンクリートの寿命を決める、ということである。

 今までの鉄筋コンクリートは鉄筋が錆びてその強度が保持できなくなるまで約65年ということだったが、鉄筋が錆びる速度を落とす事で期待耐用年数を延ばす事ができるようになった。

 「100年コンクリート」という言葉は法的にも建築学会の資料にも見当たらないが、日本建築学会の「建築工事標準仕様書・同解説ム鉄筋コンクリート工事JASS5」という中に100年という数字がでている。それによると鉄筋の腐食確率3〜5%という前提がある。その上で、水セメント比が48.5〜52%とされている。

 しかし、水とセメントを合わせると固まる、というのは化学反応であり、コンクリートの水の量はセメントの40%が飽和量とされているから、それ以上の水は反応せずに出て来る事になる。では何故、飽和量以上の水を入れるのか、と言えば、コンクリートを柔らかくしないと、型枠の隅々までコンクリートが巧く入ってゆかないからである。しかし、この余分水が抜ける時に目に見えない水みちができて、後にそこからコンクリート中に空気や水蒸気、水などは入り込むことで鉄筋が錆びてゆくことになる。超高耐久性コンクリートを作るには,如何にしてこの水みちを作らない様にするか、ということなのである。

 それで大手のゼネコンが研究していたのが「耐久性改善剤」と呼ばれるもので、これによってコンクリート中の水みちや空隙を塞ぎ、鉄筋の腐食を防ごうと考えた。この耐久性改善剤の量を制御する事で鉄筋コンクリートの期待耐用年数を割り出す事ができるようになり、竹中工務店による平城宮朱雀門基壇復元工事では耐用年数500年の超高耐久性コンクリートが用いられている。

 「大地に還る家」は、当然、長寿命住宅を目指すものだからそれに見合ったコンクリート基礎の寿命が求められる。政府与党が展開している「200年住宅」構想では、『長寿命化のための基本戦略=200年もつ住宅ではなく、20年×10で“もたせる”住宅』であるという。即ち、メンテしながらもたしてゆこうという発想だが、コンクリート基礎についてはメンテしながら、という訳にはいかない。住宅を200年保たそうとするなら、200年もつコンクリートが必要になる筈である。超高耐久コンクリートを早く住宅の分野まで普及させる必要がある訳だ。

 さて、「大地に還る家」は長寿命住宅でなければならないが、最終的にはその名の通り大地に還るものでなければならない。これまで住宅が解体されると、基礎のコンクリートは現場で粉砕され、中に入っていた鉄筋は鉄屑としてリサイクルの道があったが、粉砕されたコンクリートは産業廃棄物として捨てられていた。しかし、現在、増加の一途を辿る廃コンクリートに対して、処分場の許容力はあと数年の余裕しかないという状況を踏まえて、奥村組や三菱マテリアルといった企業がコンクリートリサイクルに取り組んでいる。「大地に還る家」が実際に大地に還る頃にはコンクリートも普通にリサイクルされるようになっていることだろう。

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