2009年5月12日火曜日

9-3.木造レンガ積みの家/「外張り断熱」との相性


「外張り断熱」との相性

 さて、釘の次はレンガである。以前、拙著で紹介した木造レンガ積みの家は、千葉にある工務店の主が自ら広島まで出向いてレンガ工場を探し、レンガ積みの職人も紹介してもらって造り上げたものだったが、一般に国内で造られているレンガ積みの家はオーストラリアなどから輸入したレンガを使用しているものが多かった。解散してしまったハウスメーカーの木造レンガ積みの家も黒崎播磨という会社が輸入しているレンガを使用していた。黒崎播磨は元々、高炉などに使われる耐火煉瓦を作る会社で、現在もレンガやファインセラミクスなどの製造を手掛けているが、住宅用のレンガについては自社制作するよりも輸入の方が安いということなのだろう。

 千葉の工務店ではYさんが建て替えようとしている横浜は現場が遠すぎるということで、引き受けてもらえなかったので、とりあえず僕らは二人で黒崎播磨の東京の事務所に足を運ぶ事になった。まず、木造レンガ積みの家に使われるレンガの実物をYさんに見てもらう必要があったし、レンガ積みの実際の工法について確認しておく必要があったからだ。

 千葉の工務店が使った広島のレンガは、ちょっとピンクがかった素焼きの風合いが良かったのだが、黒崎播磨で扱っているオーストラリア産のレンガはその色調は5種類くらいあったものの、表面に撥水性をもたせるために釉薬が塗られていて、その妙な光沢が僕のイメージには合わなかった。それは、ハウスメーカーが幕張の展示場に新築したモデルハウスを見た時にも感じた事だった。

 木造レンガ積みの家の断熱については充填断熱でも問題はないが、実は外張り断熱に適している。外張り断熱では木造の軸組の外側に断熱材を張るので、その上に通気層をとって外壁材を張るには、専用の長い釘を使って留めなければならない。外壁材を持ち出したまま支えなければならないので、できるだけ軽い外壁材を用いなければならない、という制約がある。

 しかし、レンガ積みは正しくコンクリートの基礎の上にレンガを積み上げてゆくので、レンガの荷重を釘で支える必要がなく、一定間隔で柱梁から横揺れに対するサポートを取っておけば良い。レンガ積みの家は普通の木造住宅に比べると地震に対して柔軟性がないから、層間変異を極めて小さく見積もり、そのため相当な耐震性を持たせる必要が出て来るから、軸組の外側を構造用合板で覆い、しっかり固める必要がある。構造用合板は結構、透湿抵抗(湿気の通し難さ)が大きいので、それだけで高気密を確保することができる。この外側に発泡プラスチック系の断熱材を貼る訳だから、構造用合板が気密シートの役割を果してくれる訳だ。そんなところがまさに外張り断熱とレンガ積みの相性の良さと言えるかも知れない。今回はこの構造用合板を留めるのが、先に見つけておいた安田工業のスーパーLL釘である。

 構造に関しては木造2階建ての場合に用いられている通常の壁量計算だけでは心もとないので、構造屋さんに頼んで許容応力度計算にかけてみると、構造用合板で面剛性を取るだけでは充分ではなく、壁という壁にはことごとく筋交いを入れなければならないことが分かった。流石にこんな家を僕も見た事がない。大地震で廻りの家が総て倒壊してしまっても、その中でこの家だけはびくともしないで建ち続けているのではないか、と思えるほどだ。

 さて、レンガ積みについてはひとつ面白い話しがある。準防火地域では木造2階建ての建物は外壁と軒裏の延焼の恐れのある部分を防火構造としなければならないが、明らかに防火性能に優れているレンガ積みの外壁であっても個別に認定番号を取得していないものは防火構造と認められないのである。だからハウスメーカーで木造レンガ積みのモデルハウスを造った時には、黒崎播磨のレンガ積みの仕様が防火認定を受けていなかったので、レンガ積みの裏にわざわざ防火サイディングを張らなければならなかった。それならサイディング張りの普通の木造住宅にただお飾りでレンガを積んでいるに過ぎないことになってしまう。そうならないためにも何とか無用なサイディングを張らずに済ます事ができないか、というのが、以前から気になっていることだった。ただでさえ高価なレンガ積みをするために、サイディングの費用まで見込まなければならないとしたら、あまりにお金がかかりすぎるからだ。

 しかし、その後、ハウスメーカーでの需要を見込んで黒崎播磨では木造レンガ積み仕様の外壁の防火認定を取得していたのである。結局、ハウスメーカーの宛ては外れることになったが、しかし、今回のYさんの家は準防火地域であり、多少、その風合いに不満があっても、この認定取得は黒崎播磨のレンガをYさん宅の有力候補として挙げなくてはならない理由として十分だったと言えるだろう。

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