2009年5月21日木曜日

10-5.「高気密・高断熱」後/外張り用断熱材の隠された問題点


外張り用断熱材の隠された問題点

 高気密・高断熱住宅は、それも外張り断熱は、首都圏太平洋側の温暖地においても非常に有効なものと言える。そして、高断熱を施すためには内部結露の原因となる水蒸気を壁体内に入れないための「気密」が必要である、ということは、自然を科学的に読み解くことで得られた解決法であり、その技術として確立されたのが高気密・高断熱工法だったと言っていいだろう。

 しかし、これまで長い歴史の中で培ってきた日本の木造技術は、壁の中に湿気を溜めない、湿気を通すという技術だったのだから、「高気密」はそれに真っ向から対立するものとして受け止められてしまっていたのかも知れない。未だにこの「気密」という言葉の意味を理解できず、「日本の家は気密化が進んだことによって結露やカビ・ダニの問題を抱えてしまった」という時の「気密化」と区別がつかない設計者が多いが、しかし、その意味するものはまるで違うのである。

 科学万能の時代に生まれ、より自然と対峙する生活の中に身を置いていても、宇宙の総てを解明できた、と奢るほどまだ何も分かっていないことを我々はよく知っている。「科学技術がどんどん発達してゆけば、我々はより自然に近づく」と考えれば、今、確立されている高断熱・高気密の技術も過度的なものに過ぎないと言えるだろう。

 例えば、外張り断熱に用いられている断熱材は、現在、その殆どが発泡プラスチック系の断熱材である。断熱により熱損失の少ない家づくりをすることは、CO2の排出を抑制する上で極めて効果的である。しかし、その為に生産エネルギーの大きな石油系断熱材を用いるというのはちょっと矛盾する話ではないだろうか。勿論、発泡プラスチック系断熱材によって高断熱化された家が生涯削減できるエネルギーに比べたら、その一軒の家に使用される発泡プラスチック系断熱材の生産エネルギーは遥かに小さなものかもしれない。それでも、使用される断熱材がもっと生産エネルギーの小さな、しかも断熱性能の高いもので、さらに、使用後に廃棄処分が容易なものであればそれに越したことはない。

 先に、「外張り断熱」を止めた理由について、その価格の問題だけを挙げていたが、丁度この頃、僕は外張り断熱の隠された問題点を知ったのである。それは外張り断熱に用いられている発泡プラスチック系断熱材は、その多くが「経時劣化」という問題を抱えているということだった。
 発泡プラスチック系の断熱材は、大方、断熱効果ガスを封入した細かな気泡を固めたものだが、その気泡の中に挿入されたガスが次第に空気と入れ替わり、断熱性能が低下してしまうという現象で、フェノールフォーム以外のもので、早いものでは5年ほどで断熱効果ガスが抜けて断熱性能が約20%も減少してしまうということだった。

 このことは商売敵であるガラス繊維協会のウェブサイトにも載っていたので、あるウレタン系の断熱材メーカーにこの経時劣化の問題についてメールで確認したことがあったが、その問い合わせには全く返答がなく、暫くしてそのメーカーのウェブサイトを見ると、断熱商品を紹介するページに次の但し書きが付け加えられていたのである。

「断熱材の選定に当たっては、経時劣化を考慮の上その必要厚さを決めて下さい」

 メーカーによっては、それぞれの素材、性質を踏まえて、断熱材表面をフィルムでコーティングするなど対策を講じているが、その効果がどこまで持続するものなのか、いずれにしろそう長期間に渡ってその性能を維持するのは困難であろうと思われるし、廃棄時の問題も残る。

 自然系断熱材の取り組みとしては、今まで利用価値のなかった杉の表皮を用いた木質繊維ボードを断熱材として外張り断熱をすることもでき、実際に使用されているが、性能的に劣る木質繊維ボードは発泡プラスチック系の断熱材と同じ厚みではその効果が低く、かといって、厚くすれば外壁を支えるのが困難となる。「外張り断熱」は発泡プラスチック系断熱材の性能の高さがあってその厚みを薄くすることができたのだが、その性能の持続性に疑問がでてしまうと、「外張り断熱」という工法自体が成り立たなくなってしまう。

 しかし、今、「できるだけ石油化学建材は使わない様にしよう」という方針が固まれば、別にクドクドとその理由を説明するには及ばない。「高気密・高断熱」後の、特に「外張り断熱」後の断熱を考える時、その施工性の良さから採用していた発泡プラスチック系の断熱材は、それが石油化学系建材であるという理由ひとつで排除して良い事になるのだから。

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