2009年5月9日土曜日

8-4.コラボレイション/デザインとはマジックである



デザインとはマジックである

 長野の小さな村の縄文土器を展示する資料館は、K君と共に、縄文土器を飾った展示ケースでカーテンウォールのファサードを造る、という大胆な提案を試みたが、却下され、基本設計としてプランをまとめ上げるのに予定外の時間を通やすことになった。この計画は,当初からスケジュールが立たず、それが明確になった時にはすでに無謀な設計工程を求められていた。そして、この計画はやっと基本設計のまとめの目処が立ったところでストップしてしまった。村から、設計工程が守られていない旨の申し出があり、受注していたコンサルタント会社が一方的に契約を打ち切られてしまったのである。

 後で分かったことだが、村長が地元の設計事務所にこの仕事を廻したのである。そして、村長は程なく贈収賄容疑で捕まることになった。お陰で僕らは約半年の間、無償で働いたことになる。

 遠隔地であるため、K君に敷地を見てもらうための交通費を工面する事もできず、僕は元請けのコンサルタント会社の社長と共に、先方の役所の担当者との打ち合わせに合わせて、朝一番の飛行機に乗って何度か現地を訪れた。岡山空港に入り、岡山駅から電車で瀬戸内海を渡って、香川県の丸亀の駅で借りたレンタカーで現地に入り、午前中の内に計画敷地を視察し、道端のうどん屋で讃岐うどんを食べて、昼一番の役所との打ち合わせに出席する、という強行軍である。こうした遺跡の現場は便利な町の中にはないから、いつも車は欠かせなかった。

 この計画もやはり完成まで町の予算に合わせて毎年少しずつ進めて、展示工事まで終えてオープンに漕ぎ着けるまで5年を要するスケジュールで、工事着工の予定はその時点では明確ではなかったが、実施設計はその年度中に仕上げなければならなかった。

 K君は施設を3つのブロックに分けた僕のスケッチを元に、具体的なデザイン検討に入っていたが、より新しいアイデアを盛り込むことに力を入れる基本設計と、それを如何に具体的に実現するか、ということを考えなければならない実施設計ではまた違う設計の醍醐味がある。例えば、僕は国道から見える施設のアプローチ面にコンクリートの長い壁面をつくり、その壁面をどうデザインするか、K君にいいアイデアを求めていたが、K君はその壁面に三十度の角度で均等に丸い穴を空けるというデザインを考えていた。即ち、コンクリートの表面は楕円形になるということだが、それだけ鋭角でコンクリート壁に孔を空けると、薄くなる部分が欠けてしまい決して奇麗な楕円にはならないことが目に見えていた。普通ならそのようなデザインは無理だということで諦めるところである。

 しかし、建築を設計する面白さというのは、実はマジシャンのように、人を如何に不思議がらせるか、というところにある。常識的には無理だと思われることをいかにして可能にするか、マジックを考えることがひとつの新しい表現性に繋がってゆくのである。僕らは斜めに切断した鋼管を型枠の中にセットし、コンクリートの中に打ち込んでしまうことで、このデザインを可能にした。

 さらに、沢山の丸い穴が斜めに穿たれたこのコンクリートの壁は屋根の部分で、逆L形に片持ちのスラブが普通なら支え切れない長さで飛び出している。これは、背後にもやはり逆L形の壁、スラブが高さを変えて噛み合う様に配置されていて、その間に空間を作っているのだが、屋根の部分で噛み合った隙間に設けられたハイサイドライトのサッシ部分に隠されたスチールのフラットバーで、上のスラブから下のスラブを吊っているのである。

 K君とのコラボレイションで実施設計を終えたこの小さなガイダンス施設には、そうしたマジックがちりばめられていた。この様に、設計者が設計を純粋に楽しめる機会は何にも変え難いものである。

 あとはお互い生活のための収入を何処かで工面しなければならない、という現実が待ち構えてはいたが、

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