2009年5月20日水曜日

10-4.「高気密・高断熱」後/断熱は最も効果的なパッシブデザイン


断熱は最も効果的なパッシブデザイン

 僕は前作「究極の[100年住宅]のつくり方」(パル出版)で「温暖地における開放的な高気密・高断熱住宅」を提案し、幾度かセミナーや講演会活動をしてきたが、その度毎に先に述べた様に「気密」について拒否反応を示す人達に出会ってきた。北海道の大学で充填断熱による高気密・高断熱構法、「新・木造在来構法」の開発現場に立ち会い、首都圏で独立後、高気密・高断熱住宅を手掛け始めて間もなく、外張り断熱に切り替え、その普及活動に勤しんで来たのは、ハウスメーカーがやっと今頃になって気付き始めている様に、充填断熱より外張り断熱の方が優れているという判断からではなく、高気密・高断熱住宅の経験のない首都圏の大工さんに「防湿気密シート」をきちんと施工するのは困難であると見極めたからに他ならなかった。即ち、外張り断熱は圧倒的に施工がし易く、施工不良箇所が発生し難い工法だった、ということである。

 しかし、僕自身もこうした北国で生まれた高気密・高断熱工法が首都圏という温暖地に本当に相応しい工法なのかどうか、全く疑問を持つことなく家づくりを行ってきたという訳ではない。確かに、この地にあっても高気密・高断熱住宅は、圧倒的にその温熱環境を改善することができる。僕が提唱した「開放的な高気密・高断熱住宅」とは、北海道とは違い冬場の晴天率の高い首都圏地域においては、断熱性能を高めさえすれば大きな窓から日差しを取り入れる、即ち、ダイレクトゲインにより、ほんの僅かな暖房を付加するだけで充分温かな家になる、ということであり、夏場はこれまでの「夏を旨とする」家づくりと何ら変わるものではなかった。言い換えれば、夏涼しく冬寒い家を、夏涼しく冬暖かい家にしようということに他ならない。

 実際にシミュレーションしてみると、関東周辺の、いわゆるIV地域にI地域、即ち北海道などの寒冷地における次世代省エネ基準並の高断熱を施した場合、真冬の時期に太陽のダイレクトゲインと生活熱で平均17℃の室温を保つことができるのである。20℃の室温を保ちたければ、あと3℃分、小さな熱源で加熱してあげればいい訳だ。

 さて、次項に示した図は、一般にオルゲーの図と呼ばれるもので、パッシブデザインについて語る時によく用いられるものである。一点鎖線で示された大きな波(外部条件)は、一年を通した外気の温度変化を表し、左から右へ、冬には温度が下がり、夏には温度が上昇する。実線で示された線は建築的手法によって到達する室内気候を示し、残りの部分を機械的な手法によって快適な温度領域までもってゆこう、という考え方を示している。家のカタチというのは普遍的に厳しい外界の気候条件を建築的な手法によってどこまで和らげる事ができるか、という結果であり、その手法をパッシブデザインと呼んでいる。

 例えば、高温で乾燥した砂漠地帯では、日中は暑いが、日が沈むと湿度が低いので急激に気温が下がる。そのような土地では、家は日干し煉瓦で造られ、この日干し煉瓦の厚い壁は、日中は強い太陽の日差しを遮り室内を涼しく保つ事ができ、夜は日中壁に蓄えられていた熱が室内に放熱し、室温を保つ事ができる。中東のバーレーンではこの日干し煉瓦の壁の厚み45cmくらいが丁度いいという。

 逆に、高温高湿の地域では、草木を用いて、できるだけ熱容量の小さな(熱を溜めない)、風通しの良い家を造る。このように人間の住居は、その土地の気候条件に合わせて厳しい外気条件を和らげるパッシブデザインがなされて来たのである。

 さて、再びオルゲーの図を見てみよう。点線で示した様に、日本の伝統的な住居は「夏を旨とし」冬は諦めていたので、冬場は外部条件に近い曲線が描かれ、夏は外部条件よりずっとなだらかになっている。
 しかし僕らは、これまで冬諦めていた室内環境を今、「断熱」という建築的手法で補う事ができるのである。こうした視点から見れば、「断熱」は決して自然に逆らった手法ではなく、実は最も効果の高いパッシブデザインであるということが分かるだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿