2009年5月30日土曜日

11-6:長寿命住宅への課題/実は、木造の構造が一番怪しい


実は、木造の構造が一番怪しい


木造住宅の安全性を検証する3つの方法

 耐震偽装事件によって、それまでプロの我々でさえ疑ってみた事も無い建築物の安全性について、その信頼性は一気に崩れ去ってしまった。構造を専門にしている設計者が、まさか耐震偽装を行なうなど誰も予想していなかったし、建築基準法においてもそれは正に想定外のことだった。お陰でそれまで性善説で成り立っていた基準法も、一気に性悪説に変わり、突然、極端な締め付けが行なわれた事によって、建設業界は官製不況に落ち入ってしまった。

 これだけ厳しくなれば、建築物の安全性はもう問題ないだろう、と思われている方が多いかもしれない。しかし、木造住宅については、耐震偽装問題とは別に、構造の安全性については未だに曖昧な部分が多々残されている。そして、多くの設計者がその問題点を知らぬまま木造住宅の設計をしているのである。

 ここでは、木造住宅の構造の安全性について実際にどのような検証が行なわれているのか、そして、どこにどんな問題が残されているのか、取り上げてみたいと思う。

 現在、建築基準法において構造計算(許容応力度計算)が必要とされているのは木造3階建ての場合のみであり、木造2階建て以下の場合には構造計算が必要とされていない。仕様規定として、壁量計算、壁のバランス、柱接合部の3つのチェックのみで、それ以外は建築士の判断に任されているのが現状であり、こうしたチェックを行ったかどうか、ということも確認申請時にはその提出を免除されているのである(今後、提出を義務付ける方向で検討されているが、)。また、旧基準法においては壁量計算のみのチェックで、壁のバランス、及び柱接合部のチェックが付け加えられたのは、関西淡路大震災による法改正の時だった。これにより在来軸組工法による木造住宅の構造的なウイークポイントが随分改善された訳だが、問題点を総てクリアーした、という訳ではないのである。

 現在、木造住宅を構造的に検証する手段として次の3つの方法がある。
1) 建築基準法の告示等で示されている方法(壁量計算法)
2) 住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の新壁量計算法。
3) 許容応力度計算法。


建築基準法における壁量計算法の問題点

1) 計算上の耐力と実際の耐力にズレがある。
  壁量計算法では耐力壁の実験に基づき壁倍率を決めているが、垂れ壁、腰壁、間仕切り壁などの耐力を評価基準から外している。そのため、建物の実際の耐力と計算上の耐力が大きく異なり、正確な建物の耐震耐風性能の評価ができないのである。

2) 必要壁量が過小に評価されてしまう場合がある。
  壁量計算では必要な耐力を床面積1平米当たりの耐震必要壁量として定められているが、まず、その値の元となった固定荷重が低めに設定されている、という問題がある。
 2階建ての場合など、そのモデルは「総2階建て」を想定したものであるため、建物形状が複雑な場合に外壁や屋根軒先の重量、下屋の屋根重量が大きくなることが見落とされ、結果として、不整形な建物や重たい屋根の建物の場合には、必要壁量が過小に評価されてしまう場合がある。

3) 床剛性が考慮されていない。
  壁量計算法は耐震要素として壁の剛性のみを規定したものだが、実際には床にも剛性がなければ例え壁量を満たしていても耐力壁に力が伝達されず、床が先行破壊されて倒壊する恐れがある。
 例えば、外周部に面して「吹き抜け」や「階段」等が設けられた場合には、その外周部の耐力壁に力を伝達する「床」がないので、その周辺の床を通常より剛にして力を伝達するなどの配慮が必要となるはずなのだが、基準法ではこの極めて重要な要素が欠落しているのである。

4) 過剰な仕口金物
  関西淡路大震災の時に、耐力壁として筋交いがきちんと入っていても柱が土台から抜けて倒壊してしまっている、という教訓を元に、仕口金物の規定ができた。
  金物の設置方法は、告示1100号の表から求める方法とN値計算による方法の2種類が示されている。
  告示1100号の表の根拠となるN値計算法は、耐力壁が地震等の水平力を受けて両側の柱が浮き上がろうとする力を押さえ込む、柱自重の値が出隅の柱とその他の柱で一律に定められており、実質にそぐわない過大(又は、過小)な金物が設置されてしまうことがある。
  また、告示1100号の表は、計算を簡便にするため、2階建ての1階柱では上階からの引き抜き力が過大(安全側)に設定されており、必要以上の箇所に、また、必要以上に大きな金物を設置しなければならない結果になっている。

 この様に、基準法の規定ではまだまだ構造の問題に対して不備があることが分かるだろう。
 次に品確法の新壁量計算法ならどうなのか見てみよう。


品確法における新壁量計算法とは?

 品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)で示された新壁量計算法では、基準法の壁量計算法における必要壁量を見直し、より実際に近い数値を採用している。
 これまでの壁量計算法では明確な評価基準のなかった雑壁についても、新たに条件設定をし、その条件を満たすものについては存在壁量として評価している。

  注目に値するのは壁量計算法で抜けていた床剛性についての評価である。床にかかる剪断力を算出し、それに見合った剛性をもつ床を適宜配置することで、耐力壁に有効に力が伝えられることになる。
 このように新壁量計算法では基準法の壁量計算法における弱点を巧く補うものとなっている。
 しかし、建物仕様が大雑把に「軽い」「重い」という2種類から選択しなければならない仕様規定になっているため、まだ実体にそぐわない部分が残されていると言える。


これなら「安心・安全」がかなう許容応力度計算法

 さて、品確法の新壁量計算法では、あらかじめ耐力要素の倍率(壁倍率、床倍率、接合部倍率)を各部位の評価法や実験に基づいて定め、それを仕様規定としてその数値を計算式に当てはめてゆくものだったが、一般に構造計算と呼ばれるのは「許容応力度計算」のことで、この計算法では実体の建物重量から必要壁量を算出して外力を求めてゆくことができる。

 即ち、標準化された仕様規定にあまり縛られることなく、どのような重量をもった、そして、どのような形状の建物であっても、実際の建物に即した構造設計が可能となる訳である。
 例えば、2階横架材(梁等)の上に柱がある耐力壁の場合にも、横架材の曲げ剛性により低減された壁倍率が算定され、より実体に見合った計算が行われる。

 壁のバランスについても、壁量計算法、並びに新壁量計算法における側端充足率より詳細な偏芯率の検討が行われる。その上で、耐力壁線間を移動する剪断力を算定し、それに見合った剛性をもつ床を適宜配置することができる。

 継手・仕口(木材同士の接合部)に用いる金物についても、架構をトータルに計算し、より実体に即した適正な金物の選定とその配置が可能となる。

 即ち、許容応力度計算によってやっとどのような形状の建物に対しても実体に即したより正確な安全性の確認ができるということである。


木造住宅の構造はまだ「安心・安全」に応えられない?

 先に述べた通り、木造2階建ての建物(住宅等)では建築基準法で構造計算(許容応力度計算等)が求められていないので、実際に最も多く用いられているのは一般的な壁量計算法である。品確法における新壁量計算法は、住宅性能表示の耐震等級2、あるいは3が求められる時に必要となるものである。(耐震等級1は基準法の壁量計算で求められる値)

 上記の3つの計算法が木造2階建ての住宅に用いられている割合を想定してみると、九割方が壁量計算法によるもので、住宅性能表示の普及状況からみて新壁量計算法が用いられているのは一割を切り、残りのほんの僅かが許容応力度計算法によって構造チェックがなされているにすぎないと言えるだろう。
    
 耐震偽装事件を受けて平成19年に改正基準法が施工されたが、それでも木造住宅の構造については未だに曖昧な状態のまま取り扱われているのが現状なのである。

 地震国日本において戸建住宅の殆どは木造住宅である。大震災の度に法改正が行われ、木造住宅の構造性能は格段に向上したと言えるかもしれない。それでもまだまだ私達の「安心・安全」に応えてくれるものにはなっていないということを知っておく必要があるだろう。


参考文献:木構造建築研究所 田原HPともいきの杉HP
     「木構造と耐震技術 ー木質構造の近年の動向ー」武蔵工業大学工学部教授 大橋好光
     「わかりやすい木造設計の手引」里川長生

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