2009年5月4日月曜日

7-4.家づくりを共に楽しむ/どんなことだってできる


どんなことだってできる

 インテリアコーディネーターにとって照明計画は、器具メーカーからバックマージンが取れるので欠かせない仕事である。しかし、設計者にとっても照明計画は本来他人任せにすることはできない重要な仕事である。空間を造り出すということは光を計画することである。日中は自然光をどのように取り入れるか、ということがその空間をどのように浮かび上がらせるか、ということであり、夜にはまた、照明によってその空間をどのように演出するか、建築空間は光がなければ存在しないのだから、空間を造り出すということは光を設計することなのである。

 僕はできるだけ照明器具は見せたくないと思っている。コーディネーター的には部屋の用途や広さに対してどの位のワット数が必要で、その部屋に合う器具はこんなデザインのもの、という風に考えるが、僕は、その空間を美しく見せるにはどこにどのような光源を置いて光を出すか、という風に考えるので、可能な限り間接照明にして器具そのものは見せないようにしている。だから、高価な照明器具など殆ど使用することがないので、ここでもFさんには申し訳ないことをしてしまった。

 しかし、何度かM夫妻の打ち合わせに付き合ってくれたFさんは、インテリアについてコーディネーター任せにせず、いつも何か新しい試みに挑戦しようという僕の姿勢に共感を覚えてくれる様になった。元々クリエイティブな仕事を夢見て頑張ってきた積もりが、いつかしら現実のルーティンワークの中にモノづくりとしての感動を失ってしまっていたのかもしれない。今まで問題なく受け入れられてきた自分の仕事をことごとく否定されたことで、彼女は逆にプロのクリエイターとしての自覚に目覚めたのかも知れない。こういう時には普通ならこうする、というプロの常識に迎合しない僕のやり方にFさんも次第に慣れはじめ、楽しめる様になってきた様だった。

 だから、この家の象徴的な空間となっている「通り庭」の床に、普通なら「和」を意識した素材、例えば、瓦タイルを菱貼りにするとか、那智黒の玉石を洗い出しにするとかそんなイメージが沸いて来るかも知れないが、それをあえて白い大理石の磨いていない屑石を乱貼りして目地を黒くしてみたらどうか、と提案した時には、Fさんは積極的にカタログを調べてそんなイメージにぴったり合うトラバーチンの乱形石を探し出してくれた。

 楽しい打ち合わせというのは、一人が何かを言うと、それをヒントにアイデアがどんどん膨らんでゆくような打ち合わせのことである。この家には実はまだ隠されたテーマがあって、それは「どこでもゴロゴロできること」というもので、施主の要求の裏側に共通して感じ取れるものだった。だから浮づくりのフローリングにも特別な反応を示していたし、和室の琉球畳も然り、通り庭の土間に用いようとしているザラザラした、磨いていない大理石の風合いも素足で感じたい、という気持ちを高めるものの様だった。しかし、極めつけはリビングにベッドを作って欲しいという要望である。かつてバリのリゾートホテルに泊まった時の印象が忘れられず、寝るためのベッドではなく、リビングでゴロゴロするためにベッド用のマットレスを敷いたスペースを作って欲しいというのである。リビングの一角に畳やカーペットを敷いた小上がりコーナーを作ることは良くあるが、流石にベッドのマットレスを敷いた経験はない。

「この位置だとテレビからちょっと遠いかもしれませんね。リビングにソファとか何か置きますか?」

「別に何も置くつもりはありません。折角のフローリングですから、床でゴロゴロしたいと思います。」

「それじゃ、固定のものじゃなくて、リビングの中をどこでも移動できた方がいいかもしれませんね?」

「そんなことできますかね?」

「やろうと思えば、どんなことだってできますよ。」

 こうして大きなベッドに大きなキャスターを付けた「リビングベッド」なるものを作る事になり、佐倉でコツコツと一人で特注家具を作っている僕の友人に製作を依頼することにした。

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