2009年4月30日木曜日

6-3.開放的な高断熱・高気密住宅/ハウスメーカーのセミナー

ハウスメーカーのセミナー

 今はもう解散してしまったが、僕の本が出た頃に、首都圏エリアで他社に先駆けて「外断熱」を全面に打ち出して営業を始めていたハウスメーカーがあった。僕も同じく外張り断熱を本の中で推奨していた設計者だったので、何らかの繋がりができるのはごく自然な事だったのかも知れない。何度か首都圏各地で開催された「外断熱セミナー」で講師を務めさせてもらったが、そうした中ではじめてあの住宅技術評論家のM先生を紹介してもらう事ができた。M先生は勿論、外張り断熱を推奨していた人だったから、このセミナーには何度も呼ばれていたのだ。その時は、名刺を交換し、挨拶程度のお話をさせて頂いただけだったが、その後、先生が主催している集まりに毎年、招待して頂くようになった。

 ハウスメーカーの主催するセミナーに招待される客は皆、営業マン達がそれぞれ担当している見込み客である。そんなセミナーで講師を務めると、ちょっと厄介な問題が発生したりする。僕に設計を頼みたい、というお客さんが出て来るのだ。こちらとしては嬉しい話しだが、その客は元々、そのハウスメーカーの客である。そこからセミナーの講師を頼まれていれば、その客を自分の客にしてしまうことはできない。

 しかし、一番困るのが、こうしたセミナーとは関係なく僕のところにやって来て、そのハウスメーカーとどちらが良いか、と値踏みをするお客さんがいることである。これが他の設計事務所との話しなら、どちらがその客を掴もうが腕次第だから問題はない。しかし、相手がハウスメーカーとなると、これは非常に厄介なのである。ハウスメーカーがその事を知ると、途端に僕はそのハウスメーカーにとって競合する敵とみなされてしまうのだから、凄い圧力が掛かって来るのだ。それまで、セミナーでは先生、先生ともてはやされていたのが、「もし、そのお客さんを取ったら、もう二度と講師はお願いできない」と、脅しをかけて来る。だからそんなお客さんが来たら、丁重にお断りをするしかない。

 ハウスメーカーの営業マンというのは、最も高額な商品を売っているセールスマンである。だから、年間に数えるばかりの件数をやっと契約できるに過ぎない。何ヶ月も顧客を獲得できないこともざらにあるのだから、そんな時の営業マンは必死である。

 営業マンの殆どは建築を専門に学んだ事のない人達である。下手な知識があっては真剣に自分達の商品を客に勧められない、という裏事情もあるだろうが、何も知らなければそれだけ客の目線に近いということは確かだ。お客さんが最終的にその家を買おうと思うのは、一番相性の合う営業マンに出会った時だ、と言われるのも、悔しいかな、事実なのだから仕方がない。

 さて、このハウスメーカーはご自慢の外断熱にダウ加工のSHS工法を採用していたが、細部に至までよく考えられた工法になっていた。これなら内部結露の問題は極めて少ないと言えるだろう。このメーカーもそれまではグラスウールによる充填断熱を行っていた。充填断熱の場合、外壁に耐力面材として構造用合板を使うと、湿気が抜け難く内部結露の問題を抱えてしまうので、部屋内側での防湿措置が重要となって来る。

 住宅で用いられるグラスウールやロックウールといった繊維系の断熱材は、部屋内側は防湿シート、外壁側は透湿シートとなった袋に入れられ、それを柱、間柱間に挿入する様になっている。防湿シートは四周に耳が付いていて、それを柱、間柱の上に重ねて留め、その上に内装下地のプラスターボードを張る事で防湿・気密を図ろうというものである。これがきっちり施工できれば理論上、内部結露の心配は少ないと言える。しかし、やはりそれを完璧に施工する事は難しい。ハウスメーカーにとって一番困るのは、現場によって施工の出来、不出来が発生してしまう事である。だから、どんな下請け工務店にでも失敗のない仕様としなければならない。

 防湿シートの確実な施工に難があるとすると、耐力面材として効かせている構造用合板を何とかしなくてはならない。湿気が上手く抜けて、尚かつ耐力面材となるものでなければならないから、ハウスメーカーはそれを独自に開発して、わざわざ耐力面材としての認定を取っているものも多い。このメーカーでもそうした苦慮を重ねてきたが、結露防止の目的は達成しても気密性が低いから、厚い断熱材を入れても換気損失が大きく、暖かい家にはなかなかならなかった。外断熱の採用は、そうした問題を一気に解決するためのものだったのである。外断熱にすれば、構造用合板等の透湿性の低い耐力面材はそのまま防湿気密シート代わりにもなるし、その上に張られる断熱材は、直接、外壁通気層に面していることになるので、結露に対する安全性は格段に高まる。

 しかし、その外断熱に用いられる断熱材は発泡プラスチック系の断熱材だから価格が高く、ハウスメーカー同志の価格競争においては極めて不利な条件を備えてしまう事になる。ここに大きなジレンマがある訳だが、このメーカーは「外断熱」に一ランク上の住宅というイメージを持たせようという戦略を持っていた様に思う。僕が自分の本である工務店の事例を紹介し、このメーカーの新しいモデルハウスの企画にも提案した「木造レンガ積みの外断熱住宅」を本当に造ってしまったのも、そうした高級指向のイメージ戦略にすっぽりハマったからかも知れない。

 しかし、このハウスメーカーは、ある日突然解散してしまった。親会社の上場を期に、不採算部門を整理する一貫の措置だった。確かにハウスメーカーとしては他社より高い商品であったから、その販売は容易ではなかった様だが、一定のファン層ができるほど性能の良い住宅を提供していたと思う。しかし、このハウスメーカー自体、親会社の存在に甘えていたという事実もあるのだ。こうして、以外と旨味のあったセミナー講師の仕事も消えてしまう事になった。

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