2009年4月24日金曜日

5-1.外張り断熱の家/初めての外張り断熱

初めての外張り断熱

 僕は、自邸といい兄の家といい、工務店には立て続けに辛酸をなめさせられていたので、二度と同じ轍は踏まないと心に決めていたのだが、すぐにまた同じ様な問題を突きつけられることになった。
 僕は大学の仕事で、週一回くらいのペースで八王子まで通っていたが、僕がかつて現場常駐していた頃から懇意にしてもらっていた八王子校のトップである総務部長から、自宅の設計を頼まれたのである。

 自ら積極的に人の輪の中に入ってゆくことが苦手で、営業マンには決してなれそうもない身としては、少しでも人と出会える機会を与えられ、朴訥な自分を理解し信頼してくれる人に出会えることは決して多いことではなかったから、部長の申し出はありがたかった。しかし、そこでやはり、この工務店を使いたい、という話しになったのである。

 大学の校舎を建てる様な大きな仕事は、名のある建設会社に発注されるが、その他、大学では教室の間仕切りを変更したり、内装を変えたり、といった細々とした工事が結構ある。部長が指名した工務店は、そんな工事を長年請け負っていたところで、部長の信頼の厚い工務店だった。僕は、自らの失敗を語り、それとなく部長に忠告したが、しかし、結論は変わらなかった。

 僕は以前、飲み会で遅くなり終電を逃してしまった時に、丁度一緒にその飲み会に参加していた部長の家に泊めてもらった事がある。冬場だったのでとても寒く、石油ストーブを焚いていても、コタツが欠かせない、という感じだった。その時の部長の住まいは高尾よりさらに奥に入った所だったので、都内よりも2〜3℃気温は低かったかも知れなかったが、それは典型的な東京の住宅の姿だった。だから、部長も今度は暖かい家にしたい、という希望を持っていたから、やはり高断熱・高気密を考えなければならない。しかし、充填断熱ではまず東京の大工さんでは上手く行かないに決まっている。なら、外張り断熱にするしかない。

 僕が外張り断熱に切り替えたのは、それが充填断熱よりも優れていたから、という理由ではない。確かに施工者が高断熱・高気密をきちんと理解していなくても結露の心配の少ない暖かい家を造る事ができる。そうした施工性の良さを評価すれば、優れていると言えるのかも知れない。しかし、それは全く本質的な問題ではない。施工者が高断熱・高気密の意味とその技術をきちんと理解しさえすれば、充填断熱でもきちんと施工できる筈なのだ。それをハナから学ぼうとしない意識の問題なのだ。

 当時、外張り断熱は、スタイロフォーム(正式にはスタイロエース)によるSHS工法とアキレスの外張り工法があった。SHS工法は、大学時代、私のゼミの先生が新・木造在来構法を開発している時からあったが、北海道の寒さの中では、その断熱性能を高めようとすると厚いスタイロフォームを使わなければならない。そうすると、今度は外壁を支えるのが難しくなって来るから、厚くするにも限度がある。だから、北海道ではあまり普及していなかったように思う。しかし、首都圏なら五十ミリの厚さもあれば充分だから、外壁材を支えるにも問題はない。そういう意味でも、外張り断熱は首都圏のような温暖地向きの工法と言えるかも知れない。

 SHS工法は断熱材メーカーのダウ加工が工務店に対してフランチャイズ方式で販売していた工法なので、加盟店となっている工務店しか使えない。高断熱・高気密工法は今でもフランチャイズ方式で行われているケースが多いが、それは、高断熱・高気密の意味をしっかり理解し、決められた仕様をきちんと守って施工しないと、返って危険な住宅を造ってしまうことになりかねないからだ。間違った施工をされて問題を起こされると、その工法自体の評判を落とすことになる。だから、しっかり技術を習得した工務店を加盟店として、ノウハウ込みで断熱材を販売するのである。そしてそれは、設計事務所がなかなか高断熱・高気密住宅の設計に踏み込めない理由のひとつでもあるだろう。

 しかし、そんな中にあって、アキレスの外張り工法は、一度講習を受けさえすれば、誰でも使える工法だった。次世代省エネ基準に照らしても、この土地なら断熱材の厚みも四十ミリで済む。しかし、問題は価格だ。それは外張り断熱全体に言える事なのだが、使用される発泡プラスチック系の断熱材は充填断熱に用いられるグラスウールなどと比べると圧倒的に高価なのだ。中でもアキレスは高いという印象だった。

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