2009年4月23日木曜日

4-4.失敗に学ぶ/兄の家の失敗

兄の家の失敗

 工務店選びを間違えると、とんだ失敗をしてしまうことになる。それは、札幌に住んでいた兄の家を新築した時もそうだった。設計自体は施主とのコミュニケーションがきちんと取れれば、遠隔地であっても何とかなるものだが、監理の問題がある。毎週,飛行機に乗って見に行ける訳ではない。だから、僕は、札幌で設計事務所を開いていた大学時代の友人に、施工者を選定し、工事監理もお願いしようと考えていた。しかし、兄が使いたい工務店があると言うので、その名前を教えて貰い、その札幌の友人に聞くと、「あそこはやめた方がいい」と言う。

 彼の実家が昔、その工務店で建てた家で、当時はいい仕事をしていたらしいが、今は全く質が落ちてしまい、高断熱・高気密工法もよく分かっていないという。それをそのまま兄に話し、高断熱・高気密工法がきちんと分かっている別の工務店を彼に紹介してもらった方がいい、と進言したが、その工務店の主が逆に兄の前で彼をけなしたのだろう。兄は、その工務店を信じる、ということで、結局、監理を彼に頼むこともできずに現場が始まってしまったのである。

 このように、施主が、この工務店を使いたい,と指定して来る場合が多々あるが、それは殆ど良い結果をもたらさない場合が多い。通常は、設計事務所が力のある工務店を何社か選定して施主に推薦する。そうした流れの中では、施主と工務店は元々,個人的な関係はなく、設計者は施主の代理人であるから、工務店も設計者の立場を尊重するのである。しかし、施主が設計者を差し置いて、工務店と個人的に繋がってしまうと、工務店は設計事務所の言うことを全く聞かなくなってしまうのだ。設計図の仕様を勝手に変えてしまっても、「お客さんの了解を得ていますから、」などと言われたら、こちらは何も言えなくなる。現場で間違った工事をしていても、口先だけで直します、と言って結局はうやむやにしてしまう。だから、設計事務所が施主の利益を守る為に行う工事監理は、全く意味をなさなくなってしまうのである。

 兄の家の現場には、工事中に2〜3度足を運ぶことができたが、まさにそんな典型的な例だった。こちらが指定しているサッシが高いからと言って勝手に安いサッシを入れ、玄関にはちょっと信じられない様な小さな扉が取り付けられていた。

 兄の家は嫁さんの両親との二世帯住宅で、地下にピアノレッスン室が2つもあり、延べ面積が百坪にもなる大きな家だったが、工事の終盤に入った頃、台風の直撃に遭った。
「地下室が床上浸水してしまったよ」
と、憔悴した様な声で東京の私の事務所に電話をかけて来た兄によく事情を聞くと、地下のドライエリアの上のサンルームのサッシがまだ取り付けていなかったためにそこから雨水が侵入したとの事だった。台風が来る事が分かっていた筈なのに、ブルーシートできっちり養生しておく、ということもしていなかったのである。結局、溜まった水を排水して乾燥させた後、地下室のフローリングの床を総てやりなおさなければならなかった。北海道にはそうそう台風が上陸しないから、まさかあんな大雨になるなんて思わなかった、とその工務店の主は釈明したそうだが、あまりにも無責任な話しである。

 こうして、兄の中でも自分が信用した工務店への不信感は募って行ったのだと思うが、それでも何とか工事は完了し、僕自身も工事監理が如何に大切であるか、ということを思い知らされながらも、その時は、兎に角、完成した事に安堵感を覚えていた。しかし、問題はただ隠されていただけだったのでる。

 住み始めてから3年くらいして、外壁の塗り壁の部分がひび割れて来きていることを兄に告げられたが、塗り壁の場合は下地や下塗りがきちんとしていないと、どうしてもひび割れを起こしてしまう箇所が出て来るものである。いずれにしろ、下地や塗りが悪ければ、もっと他の箇所でもひび割れが出て来るだろうから、もう少し様子を見よう、ということになりその後一年経ったところで、塗り壁の下地のボードが浮いて来ているから、外壁をやり直したい、という話しになった。しかし、兄も自分がかつて信じていた工務店にはもう頼みたくない、ということで、私の友人に改めていい工務店を紹介してもらい、現場の状況を確認してもらう事になった。

 状況を確認したその工務店からは、すぐに連絡が入った。原因は、外壁の通気層がことごとく塞がっていて、室内側から抜けて来る水蒸気の逃げ道がなく、塗り壁下地のボードが腐ってボロボロになっている、ということだった。「外壁通気工法」というのは、今では当たり前の工法である。設計図の中にも「確実に外壁の通気を確保する事」と念を捺していたのに、全く守られていなかったのだ。それに、それだけ室内側の水蒸気が外壁側に出るということは、気密シート張りも相当いい加減な施工が行われているに違いなかった。やはり住宅は、設計者がきちんと監理までできる体制でなければダメなのだ。このことは僕の大きな反省となった。

 結局、塗り壁部分の外壁を総て剥がし、通気を確保してやり直す事になり、まだ新築と言ってもおかしくないような時期に、兄は無駄な散財を強いられる事になってしまったのだ。兄は工務店を訴えたいという思いもあった様だが、当時、今にも潰れそうな状況だったという工務店を訴えたところで、見合った補償が得られる見込みはまるでなかったのである。
 
 

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