2009年6月5日金曜日

12-6:大地に還る家/より自然な暖冷房を求めて


より自然な暖冷房を求めて

 パッシブデザインによって屋外の厳しい気候条件を和らげることができるが、それだけで快適な室内環境が得られる土地は多くはない。建築的な手法で賄えない分は何らかの機械的な方法で補わなければならない。北海道などの寒冷地では高気密・高断熱によって冬場の暖房費を一気に1/5〜1/7に落とす事ができたが、だからと言って暖房設備がいらなくなった訳ではない。

 首都圏地域は冬、寒いと言っても、北海道の様に生死に関わる寒さではない。しかし、快適な室内環境を求めれば、やはり暖房が必要となる。夏はその蒸し暑さが極めて不快であるとは言え、やはりそれも生死に関わるほどのものではない。しかし、快適さを求めれば冷房を考えなければならない。四季のはっきりしたこうした気候が豊かな自然の恵みを与えてくれるのは確かだが、パッシブデザインとしての「家」にとっては、暑さにも寒さにも、そして高い湿度にも対応しなければならないというのは、なかなか難しい環境なのである。

 高気密・高断熱住宅というのは、「高気密」「高断熱」「換気」「暖房」を4点セットと考えていたから、首都圏での住宅設計においても暖房をデザインすることは当然の事と僕は考えていた。最も失敗のない暖房方式は北海道で一般的に行なわれているパネルヒーターによるセントラル温水暖房だが、温暖地においてはそれほど完璧な暖房設備の要請はなく、常に予算をかけられないくらいそのプライオリティが低かったから、できる事はFF式灯油暖房機や深夜電力蓄熱ストーブ一台で家全体を暖めるというやり方が多かった。家全体の断熱性能が高ければ理屈の上ではそれでもOKと言えたのだが、実際には熱の発生源を分散しなければ、吹き抜けの大きさや位置、間取りによっては家の中で温度ムラができてしまう。理想的な暖房方式は、温風を出すタイプのものではなく、より自然な暖かさが得られる「輻射暖房」である。

 我が家で実験した暖房システムは外断熱を施したベタ基礎の上に温水パイプを固定し、ボイラーで60℃位に沸かしたお湯を循環させるという単純なものだった。この方式では温水パイプの熱が床下の空気を暖め、それを室内に取り込むということになるが、その間にジワジワと基礎躯体に蓄熱され、イメージとしては、早く室内に熱を伝える「伝導」と、ゆっくりと家全体を暖める「輻射」という2つの効果を狙ったものだった。

 それに対して「田園を眺める家」のシステムは、基礎躯体に温水パイプを埋め込み、コンクリートに蓄えられた熱の「輻射」だけで暖房しようというものだった。実は、この時期に発売されたばかりのヒートポンプを深夜電力で稼働し、夏には「輻射冷房」も行なうことができるというもので、日本で実現するはじめての輻射暖冷房となった。これまでこうした冷房が行なわれなかったのは、結露の問題があったからだが、蓄熱体となっているコンクリート躯体が結露域に達しない温度に設定できれば輻射冷房も可能であるということである。

 しかし、我が家での実験とこの「田園を眺める家」のシステムで感じた事は、基礎躯体を蓄熱体として使うと蓄熱容量が大きすぎてその効果を活かすには少し時間がかかりすぎるということだった。また、輻射だけで熱を伝えるよりもやはり伝導熱と輻射熱の併用を考えた方が効果的であるということだった。

 そこで「歴史を繋ぐ家」ではベタ基礎の上に断熱材を敷き込み、基礎とは熱的な意味で絶縁し、その上に温水パイプを布設し、蓄熱用のコンクリートで固める事にした。ヒートポンプは通常の電気温水器と比べて1/3〜1/4ほどの電気代に抑えることができるが、それを深夜電力で使えばさらに電気代を安く済ませることができる。これをさらに地下5メートルの地熱を利用するシステムとすれば、今考え得る最もランニングコストのかからないシステムとなるだろう。
 ところで、この輻射暖冷房システムにはひとつだけ欠点がある。エアコンなら冷房時に同時に「除湿」が行なわれるが、この輻射冷房では除湿ができないのである。だから、大きな除湿器かエアコンを除湿用として一台設置しておく必要がある。

 しかし、今、地球温暖化対策の一貫として、平成一八年にいったん打ち切られていた家庭用太陽光発電設備に対する補助制度が復活しており、電力会社に対する家庭などにおける太陽光発電の買い取り義務を課す制度の導入により、将来的にはそうしたシステムを絡めたゼロ・エネルギー住宅が確実に普及してゆくことになるだろう。


 ところで、「田園を眺める家」では、この輻射冷房以上に「外付けの電動ブラインドシャッター」の効果が非常に大きい事が分かった。室内側にブラインドを付けると日射熱の半分は室内に入って来てしまう。しかし、外付けのブラインドはその90%を遮る事ができる。これは情報としては知っていることだったが、実際に経験してみるとその圧倒的な効果に驚かされた。

 日本の家は昔から深い軒の出、庇によって夏の日差しを遮ってきたが、実は、庇の前の日射で暖められた地盤からの輻射熱が相当に室内気候に影響して、室内を涼しく保つ事ができなかったのである。外付けのブラインドシャッターはこの輻射熱にも有効に働いていた様で、夏場は朝から窓を閉め切っておけば冷房を入れてなくても結構涼しいという。北海道の高気密・高断熱住宅ではこの手はよく使われる様だが、首都圏で夏にこの断熱・遮熱の効果がそこまで活きるとは僕も期待していなかったのである。そう、パッシブ効果で済ませられるなら、それこそその土地の気候に即した理想的な家づくりと言えるだろう。

1 件のコメント:

  1. ブログ拝読しました。こちらはイタリアの木材建材メーカーの日本店で、従来の木質材料に加えて、自前の輻射冷暖房に吸音を加えた天井及び壁材の日本での可能性を調べています。中で、お宅様のブログに行き当たりました。日本で、床暖房以外の輻射冷暖房システムの販売を生業としている先の何と少ない事、またそのコストの高い事には、調べれば調べる程、恐れ入っています。御興味有りますれば、以下からカタログもダウンロード出来ますので、御覧になってください。
    イタリアFANTONIグループPATT社 商品名 「Climacustic」(クリマクスティック)
    http://www.fantoni.it/Prodotti/PannelliFonoassorbenti/Climacustic/catalogo.html
    更に興味を持って頂ければ、他資料、喜んで郵送させて頂きます。どうぞ宜しくお願いします。
    イタリアFANTONIグループPATT社日本事務所 
    http://www.patt-srl.it/

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