2009年6月2日火曜日

12-3:大地に還る家/ハウスメーカー主導の200年住宅

ハウスメーカー主導の200年住宅

 次に、2)の「耐震性が高いこと」というのは、200年住宅は100年に一度の大震災に必ず一度は遭遇する事になるのだから当然のとこであり、先に触れた様に、許容応力度計算によって構造の強度を確実に確保しておく必要がある。但し、構造計算というのは外力が横から加えられることを想定したものだから、直下型の地震が起きたらそれは想定外であり、木造住宅がどの様に変形し、倒壊にいたるのかは未知数である。

 次の3)内装・設備の維持監理が容易にできること、そして4)変化に対応できる空間が確保されていること、というのは「スケルトン・インフィル」を意味している。即ち、構造躯体は長持ちしても、キッチンやバス、トイレといった住宅設備機器や配管などはやはりその寿命が短いので、容易に更新できるようにしておく必要があるし、200年といえば6世代に渡って受け継がれてゆく家になるのだから、生活の変化に対応できる様に間仕切りなどの変更の自由度がより高くなくてはならない。長持ちする構造躯体(スケルトン)はそのままに、老朽化、変化のし易い内装・設備・間取り(インフィル)だけを交換できるようにしておかなければならない、ということである。
 
 5)長期利用に対応すべき住宅ストックの性能があること、というのは、どういうことだろうか。長寿命に耐え得る質の高い住宅のストックを確保するということは、まず、中古市場の活性化を促す事になる。また、建築廃材の排出削減による環境負荷の軽減を図ることになるり、新たに歴史を刻み得る町並みの形成へと繋がり、日本の国富における住宅資産割合を増加させることができる。しかし、戦後ずっと続いて来た政府の「持ち家支援政策」によって我が国の総世帯数4700万世帯に対してすでに700万戸も上回る住宅ストック数、即ち、700万戸もの空家がある現状をみれば、これから建てる住宅が中古となった時の市場を考える前に、現在建っている中古住宅の市場に対する具体的な施策がまず必要となるはずである。

 6)住環境へ配慮されていること、というのは、「地域の自然、歴史、文化その他の特性に応じて、環境の調和に配慮しつつ、住民が誇りと愛着を持つ事のできる良好な住環境の形成が図られることを旨とし〜」と解説されているが、大学で建築を学んだ設計者なら、小さな家一軒建てる時にも、その土地のコンテクスト(文脈)を読み取ることが「設計」という行為の重要なプロセスであることを知っているものである。
 これは住宅の造り手に求められることというよりは、行政のビジョンや、例えば、独占禁止法の不備によって巧妙に守られている「建築条件付き宅地」の仕組みを撤廃させるなど、法整備に求められる事の様に思われる。
 
 7)の計画的な維持監理や保全の履歴を蓄積すること、というのは、この7つあるポイントの中では一番の目玉と言えるかもしれない。これは即ち、「家歴書」の作成を義務付けようということである。その住宅の建設に携わった人間が200年後に生きている訳ではない。20年×10回のメンテナンスやリフォームによって200年住宅を達成しようということなのだから、新築時の設計図や仕様書、メンテナンスやリフォームの履歴をきちんと記録に残しておかなければ、到底200年の長きに渡って一軒の住宅を維持し続ける事はできないし、これまで不動産としての一軒の家が、「木造2階建て、築25年」といった僅かな情報だけで売買されていたものとは違い、資産価値としての家は、正に正しい記録の蓄積によってこそ担保されるものである。
 しかし、記録の事はともかく、「20年に一度のメンテナンス」ということについて、うがった見方をすれば、相変わらず石油化学建材を許容してゆけるように逃げを打っている様に思えなくもない。
 
 こうした「長期優良住宅」への取り組みは、ビジョンとしては評価に値するものだが、その実施に当たっては、同時に法制度の整備や税制改革も同時に実施されなければ、なかなか実効性のあるものにはなってゆかないだろう。


 ところで、「大地に還る家」は、この「200年住宅」を目指すべきなのだろうか。
 「田園を眺める家」は、海外暮らしの長かった商社マン夫婦が、老後、畑を耕して暮らしたいという希望でプランニングされた家である。即ち、子供のいる一般的な家族の家からすれば、随分変わった間取りをした住宅と言っていいかもしれない。しかし、設計事務所は常にこうした特殊解を求められているとも言えるし、それこそがハウスメーカーや工務店の家との一番の差別化と言って過言ではない。しかし、そう考えると、特殊解を求められる家はそれだけどんな住み手にも対応できるという汎用性が損なわれることになる訳だから、スケルトンにしても何世代にも渡って受け継がれる家にはなり難い。即ち、「スケルトン・インフィル」は「大地に還る家」を長寿命住宅として考える上では当然考慮しなければならないことではあるが、「200年住宅」とは、どちらかと言えば、ストック用の汎用住宅にこそ相応しい考え方なのである。

 事実、この「200年住宅ビジョン」を作成したメンバーには大手ハウスメーカーの重役の名がずらりと並んでいる。表向きはこれまでの日本の家づくりのあり方を大きく転換しようという風に見えるが、実際はハウスメーカーにとってより有利な新しい基準を作ってゆこうという目論みが見え隠れしている。平成12年に施工された品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)による「住宅性能表示制度」も、もっぱらハウスメーカーや不動産デベロッパーが顧客に対して「安心・安全」性能を数値化して見せることで自社の提供する住宅が公的なお墨付きを得ているとアピールするための営業戦略の道具として用いられているのを見れば、このビジョンもハウスメーカー主導で押し進められてゆく事になるだろうことは容易に想像できる事である。

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